『ゼルダBotW』続編が新たに見直すべき「アタリマエ」について
2014年6月に開催された「Nintendo Digital Event」にて、
青沼英字氏が「ゼルダのアタリマエを見直す」と宣言したとき、
僕は少しだけ不安な気持ちになりました。
なぜなら、一本道だからこそ実現できていたシリーズの醍醐味、
「所持アイテムの増加に応じて複雑になる謎解き」を捨ててしまうということだから。
マンネリ化の解消を目指す開発チームの意図は汲みつつ、
「本当に大丈夫だろうか…」と心配したのは僕だけではなかったはずです。
結果的に、大丈夫すぎだったことはみなさんもご存知でしょう。
メディアやプレイヤーに高く評価され、ゲームオブザイヤーを獲得しましたし、
2019年12月末時点で1780万本以上もの売上本数を記録しました。
なぜここまでの実績を残すことができたのでしょうか。
それは、『ゼルダBotW』が「ゼルダのアタリマエ」だけではなく、
「オープンワールドゲームのアタリマエ」を見直したからです。
オープンワールドと呼ばれるジャンルはもともと、
『GTA』や『TES』など、海外スタジオ製ゲームの活躍が顕著でした。
広大な世界を緻密に作りこんだオープンワールドというジャンルは、
「次世代」として認められるようになり、『Fallout: New Vegas』の発売当時には、
一本道な構成が目立つゲームを揶揄するような広告が打たれたことすらありました。
しかし、これらのゲーム体験は本当に自由だったのでしょうか。
たしかに、山ほど詰め込まれたサブクエストや、分岐するシナリオ展開など、
プレイヤーが選択できる要素は無数に用意されていますが、
ゲームプレイの流れとしては「ミッションの受注→マーカーや道のりの表示に従って移動」というのを繰り返すのが普通でした。
コンテンツの物量を増やし、「どれから遊ぶか」という選択肢は提示できても、
プレイヤーがコンテンツを選んでからは一本道なゲームプレイが展開されるというわけです。
『ゼルダBotW』は、この「オープンワールドゲームのアタリマエ」というべき現象を見直しました。
・壁のぼりアクションやパラセールでの滑空によって移動の制限を撤廃。
・定められた順序のないメインクエスト攻略。
・謎解き用アイテムを序盤で全て与えることでダンジョン攻略の順不同化を実現。
→シリーズ恒例だった所持アイテムの増加に応じて複雑になる謎解きは無くなり、
代わりに物理エンジンや化学エンジンの「掛け算の遊び」によって奥深さを確保。
・最小限に抑えられた、目的地を指定する用途でゲーム側から提示されるアイコン類。
・ 「思い出の場所」を巡り過去の記憶を見ていくことで理解するストーリーテリング。
このように要素を組み立てたうえで、
プレイヤーの視線誘導を意識した地形、ロケーションの距離感などを、
300人体制でのテストプレイによって綿密に調整し、フィールドを作り込むことで、
『ゼルダBotW』はプレイヤーがひたすら能動的に探索することの出来る、
「ノンリニアなゲームプレイ」を提供したのです。
『ゼルダBotW』のゲームデザインは、端的に言うと滅茶苦茶合理的だと思います。
「遊んでいる人が好きな順番でひたすら探索できるゲームがあったら絶対面白い」
という発想を実現するために、ピュアにデザインされているゲームだからです。
では、そんな『ゼルダBotW』の続編が新たに見直すべき「アタリマエ」とは、
一体なんなのか!?
ここまで読んだ暇な人が何人いるのか分かりませんが、書いていこうと思います。
ずばりそれは、「ストーリーのアタリマエ」です。
救うべき姫がいるし国もある、というストーリーのアタリマエ。
『ゼルダBotW』ではチュートリアルを終えると、ハイラル王によって、
「ガノンを100年間抑え続けている姫の開放」という使命を託される事になります。
ついでに一緒にパラセールも受け取って、はじまりの台地から飛び出してうきうきの大冒険へと駆り出すわけです。
ほとんどのプレイヤーがそうだったと思うんですが、この瞬間からゼルダ姫の救出が脳裏によぎるまで、50~100時間くらいはありましたよね?
ゲームシステム上ではいつでもガノンに挑むことは出来るけど、
ひたすら寄り道を楽しんで、それに飽きてきたタイミングでハイラル城に向かい、
ゼルダ姫を助けエンディングへ、という流れだった人が殆どでしょう。
正直言ってゼルダ姫を助けたカタルシスみたいなものはあまりありませんでした。
シームレスなゲームプレイを楽しんでくれ、というコンセプトと、
ゼルダ姫の救出というストーリーが噛み合っていないからです。
なんども言っているように『ゼルダBotW』は合理的に組み立てられた傑作ですが、
ここだけはいびつです。
この問題を解消することができれば、
『ゼルダBotW』続編はさらなる傑作評価を得ることが出来るのではないでしょうか。
「シームレスなゲームプレイ」というコンセプトから一旦離れて、
ムジュラ的な外伝作になる可能性もありますけどね。
おわり